ここがヘンだよ中部電力! 
〜石橋教授の大反論〜

「阪神大震災は、いかに現代都市が大地震に弱かったかを示し、間接的には、原発近くで大地震が起きた場合の危険性を証明するものでした。

しかし、私も含めて地震学者は、それをはっきりとは指摘してこなかった。そのことを私は深く反省しています。」

こう話す、東海地震の提唱者である石橋神戸大教授は、03年7月に国際学会で「浜岡原発は危険」と明言したことで物議をかもしだした。その発言に対し、中部電力も反論しています。しかし、中電の「反論」はよく読めば分かるように、従来の主張を繰り返すだけで、石橋教授の強い疑問に対して何ら具体的に答えていません。

中部電力の主張に対する石橋教授の「強い疑問」をここで紹介します。(別冊宝島「これから起こる原発事故」より。) どちらの意見に説得力があるか、あなた自身が判断してください。(2005年1月28日リンク切れを修正しました。)

【目次】
【1】国の地震モデルの問題〜策定の基礎が根本的に間違っています
【2】M7.5クラスの大地震が立て続けに複数連発する「多重震源」
【3】「枝分かれ断層」の上に原発があったら直下型地震の直撃になる
【4】隆起が一様に起こる保証はどこにもない
【5】軟岩の相良層は脆弱な岩盤
【6】原発部位のランク付けは正しいのか?
【7】『原発震災』の恐ろしさ
尚、「【6】原発部位のランク付けは正しいのか?」などの各タイトルは当HP管理者の山内がつけたものです。
中部電力・原子力発電所の地震対策 のページ


1】国の地震モデルの問題 〜策定の基礎が根本的に間違っています

「政府や電力会社によれば、原子力発電所の耐震安全性は、1978年に策定(81年に一部改定)された「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下、「指針」)が原発の安全性を保証していて、大地震でも絶対大丈夫だということになっています。

「指針」では「将来起こりうる最強の地震である【設計用最強地震】」による揺れをS1、さらに「およそ現実には起こりそうもない【設計用限界地震】」による揺れをS2として策定し、それらに基づいて原発の耐震設計をするように定めています。しかし、S1、S2の策定の基礎が現代地震学の常識から見て根本的に間違っています。またそれ以前に、全国にある原発は、私からみると、わざわざ大地震に直撃されやすい場所に立地されているとさえ思えるのです。

また原発推進側も発生を懸念する東海大地震の危険性から述べましょう。予想震源域のまっただ中には、浜岡原発があります。中部電力が出した浜岡3号炉設置のための申請書類によれば、現実に起こりそうもない限界地震による揺れ=S2として、マグニチュード(以下、Mと略)8.5の地震による揺れも想定し、だから絶対安全と言っています。しかし、その揺れの計算モデルは単純なもので、実際の地震の起こり方からはかけ離れていると言わざるをえません。
M8クラスの巨大な東海大地震は、日本列島の下に沈みこみ、絶えず陸地を圧迫するフィリピン海プレートという岩盤とその上の陸地プレートの境界面を震源断層面として起こると考えられています。
地震とは、この震源断層面のズレによって起こる岩石破壊と定義することができます。 中電の計算モデルは、この「震源断層面」のズレ破壊が一ヶ所から始まって一様に進行するというものですが、現実の「面」は強弱が入り乱れており、確実にもっと複雑なことが起こります」

●中部電力・設計用最強地震(S1)と設計用限界地震(S2)

【2】M7.5クラスが連発する「多重震源」

「特に私が心配なのは、震源断層面の各所で飛び飛びに岩石破壊の連鎖反応が起こる『多重震源』となることです。ある場所からバリンと割れ、震源断層面の上を猛烈な速さでズレ破壊が進む。そのとき、面の強いところ弱いところでぎくしゃくし、あちこちに別々の大破壊を生じ、それらがまるで複雑骨折のように次々と連鎖する。つまり、M7.5クラスの大地震が立て続けに複数連発するようなものです。そうなると激しい地震の揺れが何度もきます。

また、こうした多重震源の地震では、短周期の地震波を非常に強く発生します。一方、原発のような剛構造構造物には、この短周期地震波が大きく影響するんです。配管類などに厳しい影響を与えるのは短周期だけとは限りませんが」

【3】 「枝分かれ断層」の上に原発があったら原発を直撃する!

「もう一つ、東海大地震で大変心配なことがあります。それは、今述べた海洋側と陸地側のプレート境界面の破壊だけでは収まらず、陸地側の岩盤の中に『枝分かれ断層』というものが派生してでき、そこでもズレ破壊が生じることです。もし、その真上が原発だったら、まさしく原発を直撃する直下型地震になります。それは地震学的にいって、ほぼ確実に起こると考えられますが、電力会社が作成したモデルではまったく考慮されていません」

要するに、M8クラスの東海地震とは、プレート間地震という海洋型地震と、内陸型の直下型の地震が同時に起こることなのです。その場合、兵庫県南部地震(阪神大震災)で大きな被害を出した震度7の地点の比ではないでしょう。揺れはもっと複雑で長時間に及び、はるかに激しいものになるはずです。

私はなにも、反原発の立場から無理に話をつくっているわけではありません。地震の歴史をみても、同じ場所で同じようにな発生の仕方で、1854年の安政東海地震(M8.4と推定されている)が起こっている。それから150年近くが経ち、プレート間にひずみエネルギーが蓄えられる期間からいっても、東海大地震が近い将来起こる可能性は非常に高く、その起こり方も、今述べたようになるだろうということなのです。」

【4】 隆 起 問 題 〜 隆起が均一に起こる保証はどこにもない

もう一つ心配なのは、地震による隆起の問題です。それは大地震までに蓄えられたひずみエネルギーがいっきに解放され、それまで百何十年かの間に少しずつ沈降していた陸側プレートがバーンと跳ね上がり、岬が隆起したり沿岸地域が海側にせり出したりする。前回の安政東海地震の際、浜岡あたりの海岸線は1m以上隆起したのです。

隆起が一様に起これば、原発全体が持ち上げられるだけでまだ済みますが、隆起した地盤が壊れて、地表の隆起が不均一にガタガタする可能性も考えられます。その場合、持ち上がり方が、たとえば原子炉のある建家は1メートル、タービン棟のほうは70センチという具合になれば、両方をつなぐ配管がダメージを受け、原発事故を起こさないといえるでしょうか? おそらく設計上、ある程度は揺れ方の違いによる「遊び」が考慮されているとは思いますが、地盤の変形には追いつけない恐れが強いと思います。

●中電の隆起についての説明
http://www.chuden.co.jp/torikumi/atom/detail/jishin/jishin10_01qa.html#07
中電の説明では、隆起が不均一に起こる可能性には一切触れられていません。

【5】軟岩の相良層は脆弱な岩盤

「原発立地店の岩盤も懸念されます。 政府や電力会社は「岩盤の上に作ってあるから原発は安全だ」と言うが、実は必ずしもそうじゃないんです。

多くのダムはコチンコチンに硬い一億年以上昔の岩盤の上に造られていますが、浜岡原発の岩盤は、わずか400万年前にできた左岸・泥岩互層の軟岩です。

そうした脆弱な岩盤の下に、先に述べた「枝分かれ断層」が集中している。しかも、一号機と二号機は私の東海地震説以前に着工されて、まったくこれを考慮していない。東海大地震が起きれば、浜岡の四機の原子炉が無事でいられるとはとうてい私には思えないのです。」

●中電の相良層の説明
http://www.chuden.co.jp/torikumi/atom/detail/jishin/jishin10_01qa.html#04


【6】原発部位のランク付けは正しいのか?

「最初に述べた政府の「指針」の基本に、耐震設計上の施設の「重要度分類」というものがあります。それを見ると、最重要施設としては、原子炉格納容器、制御棒などをAsクラスとし、非常用炉心冷却系などをAクラスとしています。

すなわち、大地震が起こったとき、原子炉を「止める」、各分裂反応が止まっても出つづける崩壊熱を「冷やす」、放射性物質が漏れそうになっても「閉じ込める」という三つの機能が損なわれないことを「最重要」とし、Asを「設計用限界地震による揺れS2」に、Aを「設計用最強地震による揺れS1」に耐えるように求めているわけです。

一方、廃棄物処理設備などは建築基準法の1.5倍の地震力を考慮するBクラス、タービン棟の発電機設備などは通常の建物・機器と同じでいいというCクラスに分類されています。

しかし、少し考えれば分かることですが、原子力発電と言う一つのまとまったシステムを、重要度で強弱分類すること自体、おかしな話です。

たとえCクラスの設備が損傷しても、システム全体の健全性が保たれないことは明らかだと思います。さらに、大地震が原発にとって非常に怖いのは、多くの機器・配管類が同時に破損したり、多重の安全装置がいっせいに故障したりする可能性があることです。

原子力工学の専門家たちは、こういう私の意見を「原発の素人」と言いますが、ならば、あなたたちには地震学の知識が欠落していると言いたい。20年前に策定された「指針」は、現代の地震学からすれば問題にならないほど古いものなのですからね。

【7】『原発震災』の恐ろしさ

大地震が原発を直撃したとき、私がもっとも恐ろしく思うことは、通常の震災と原発による災害とが複合した【原発震災】と呼ぶべき大災害が起こりうることです。
放射能のために、被災地に自衛隊やボランティアが救援に行くことが不可能になり、一方、被災者も、原発事故だけならなんとか避難できるかもしれないのに、地震による大被害のために逃げられない。その結果、膨大な命が見殺しにされ、震災地が放棄されてしまう恐れがあります。また、震災からの復旧はおろか、広範囲の住民が何世代にもわたって放射能や遺伝的障害に怯えつづけなければなりません。

阪神大震災以後、「阪神大震災クラスにも耐えられる」という言葉が、安全の代名詞のように使われています。しかし、私が強調したいのは、阪神大震災を引き起こした兵庫県南部地震は、M7クラスの地震としてはごく普通の地震だということです。言い換えれば、この程度の大地震はどこでも起こる可能性がある。そうした日本の地震情勢をきわめて甘く見た原発が、全国にまんべんなくばらまかれているということなのです。」