数10年以内に起こることが確実という長期予知はされている。震源断層面の位置や大きさも推定されている。おおまかな揺れの強さも推定されている。 建物に筋交いを入れられるならば急いだ方がよい。家具の固定がまだの人は、すぐにやるべき。阪神大震災では建物が無事でも20%の人が家具の下敷きになったり倒れた家具で逃げ道をふさがれている。地震で傷ついてしまうと、飛来する放射性物質から逃げることもできない。 30日前とか7日前といった日付を示した短期予知はできない。微小地震や地殻変動・電磁波・動物の行動などに異常な変化があらわれることがある。これらは地震がせまっている兆候かもしれないと受け取るべきだ。
2、警戒宣言発令まで国による“直前予知”は、震源断層面の一部がすべり始め加速していく過程をとらえようというもので“発生認知”と言うべきもの。本震の始まりと判断されると警戒宣言が出る。東海地震でのみ可能性があるとされる。しかし、本震の始まり(前兆すべり)をとらえられる保証はない。もし成功しても、大揺れの数時間前の発令が限界。 気象庁から次の順で、より警戒度が高い情報が発信される。 判定会が招集されたら、数時間以内に本震発生の確率は5分5分だと思う。危険な場所から離れ、大揺れの不意打ちに注意。天気と風向きを確かめておこう。
3、警戒宣言が出されたら震源は浜名湖から赤石山脈にかけての地下30kmのどこかと考えられている。本震の始まり(前兆すべり)が検知できるのは、震源が浜名湖下の場合は大揺れの0〜36時間前、観測機器がない赤石山脈下の場合は0〜3時間前。時間の余裕はほとんどゼロ。警戒宣言が出たらどうするか、ふだんからイメージしておこう。 神奈川西部・山梨全県・諏訪〜伊那谷・中津川・名古屋を結ぶ線の内側は、地盤の悪い場所は震度6以上になる(図1)。この範囲(対策強化地域)では電車・バスはすべて止まる。スーパーや銀行も閉まる。 図1 静岡県と中部電力は、警戒宣言が出されたら「浜岡原発は電力の需給を勘案して停止」と言っている。ただちに止めたとしても、原子炉を傷めずに止めるには半日ほどかかるから、間にあわないかも。停止しても原子炉や使用済み燃料貯蔵プールの水が抜ければ事故になりうる。
4、とつぜんの本震(大揺れ)発生で原発は?警戒宣言どころか判定会招集もないまま、本震発生という可能性は高い。浜岡原発では、地下2階の強震計が150ガルの加速度を感じると自動的に緊急停止することになっている。急激な停止は原発にかなりのダメージを与えるので、老朽原発では緊急停止により破損するおそれがあるが、止まらないよりはまし。地下では地表より加速度が小さいので、周辺地域で大きな被害が生じるような大地震でないと緊急停止しない。原発も揺さぶられている最中ということになる。緊急停止のために制御棒が一斉挿入されるが、そのときは、配管の破断や停電も起こっているかもしれない。 中部電力は、大口径配管が破断→緊急停止に成功→ただしECCS(非常炉心冷却装置)のうち最初に動くべき高圧注入系が働かないという計算結果を公表している。原子炉は停止するが冷却水が失われていき、配管破断330秒後に炉心の一部が空中に露出。崩壊熱により燃料表面の温度は100秒間に240℃から500℃まで一気に上昇。そこでECCSの残りの機能が働き燃料は再び水につかるというもの。国と電力会社はECCSは絶対に働き、メルトダウンは絶対に起こらないという。 しかし地震時には、同時に多数の破損個所が出ることが考えられる。もしECCSの残りの機能も働かなければ、事故発生10分後には温度は1200℃を超え、メルトダウンへ向かって進んでいくことになる。
5、大揺れとともに、情報と交通は途絶する東海地震では、三島から浜名湖にかけての地盤の弱い所で、阪神で最も被害が大きかったところと同じ震度7になる。浜岡原発の近くでは、清水〜静岡の邑川ぞい、焼津の朝比奈川、吉田・榛原・相良の小河川ぞいの低地、小笠町の菊川ぞい、浅羽町から袋井にかけての太田川と原野谷川ぞいの広大な低地、浜名湖北岸の気賀など、昔は湿地や潟湖の底だったところだ。原発西側の浜岡町池新田から浜名湖岸の舞阪・弁天島にかけての遠州灘ぞいも、もともと砂丘だったところで、かなりの被害になる。国道150号線は津波と液状化で寸断されるだろう。 それぞれの被災地では、何が起こっているか、しばらくは知ることができないだろう。おそらく停電のためテレビは使えなくなり、電池式のラジオだけが情報源となる。 中部電力は「東海地震で浜岡原発は壊れない」と主張し、静岡県も「もし壊れても被害は軽微で放射能は漏れない」という前提で、地震が引き金で放射性物質が放出される可能性を考えない。これでは仮に放射性物質の放出に至るような事故が進行中でも「事故は起こっていない」という誤った判断がされるだろう。東海地震発生時には、安全が確認されるまでは「事故が起こっているかもしれない」と疑ってかかるべきだ。
6、まず風向きを確かめよう浜岡原発サイトは風が強い。上空100mの年間の風向きは、北15%:東25%:南15%:西45%の割合で西風が多い。平均風速は約7m/毎秒。時速に直すと25km/毎時である。この速さで放射能が運ばれると、放出1時間後に島田〜掛川〜袋井、2時間後に静岡〜浜松、4時間後に熱海〜飯田〜岡崎、5時間後に甲府〜名古屋、7時間後に東京〜松本〜彦根〜尾鷲に達する。ただし夏は風が弱く冬は強い。(図2)図2 放出された放射性物質は、晴れの日には吹き上げられて広がる。曇りの日には低くたなびく。雨天では雨水に洗われて狭い範囲に降り注ぐ。雨に濡れることは絶対に禁物。 まず、自分の方向が原発の風下かどうか確かめよう。風向きの変化にも注意しよう。
7、被ばくは4つの経路から。@放射性物質の塵(「いわゆる放射能雲」)が通過中の被ばく。一時的。A体内からの被ばく。飛来した放射性物質や、地面から巻き上がった放射性物質の塵を吸い込むことにより、体内に入った放射性物質から被ばくするもの。放射性物質が体外に排出されないかぎり、放射性物質の種類ごとに固有の期間で放射能が減衰し消滅するまで被ばくはつづく。 B地面からの被ばく。放射能雲から地面に降下した放射性物質は、洗い流されないかぎり放射線を浴びせつづける。その場所にとどまるかぎり被ばくを受けつづけ、総被ばく線量は時間に比例して増えていく。短寿命の放射性物質は短期間に減衰していくが、セシウム137は土壌粒子と結合して数10年以上とどまり、被ばくを与えつづける。 C飲み水や食品を通じて放射性物質を取り込むことによる被ばく。 瀬尾健『原発事故そのときあなたは』(風媒社1995年発行)によれば、メルトダウンから格納容器破壊にいたる大事故の場合、@の通過中の「放射能雲」からの総被ばく線量は、Bの地面に降下した放射性物質からの時間あたり被ばく線量の2〜3時間分になり、Aの体内にとりこんだ放射性物質からの総被ばく線量はBの20〜50時間分になる。
8、遠方では、避難は「放射能雲」の通過後?東海地震時には電車は止まるし、道路も渋滞で動けなくなる。原発から30km以遠では、歩いて1〜2時間移動しても風道からそんなに離れられない。避難中に「放射能雲」に巻かれるのは危険だから、避難は「放射能雲」の通過後に、地面に降下した放射性物質からの被ばくを減らすために行うと考えた方がよさそうだ。逆に原発から15kmより近いところの風下では、地震直後に避難を始め、安全が確認されるまで避難し続けた方がよいかもしれない。海岸は津波にやられているから小笠山丘陵〜牧ノ原の稜線へ向かうことになるが、南風の場合はこの方向へは行けない。
9、放射線検知機がたより現実に「放射能雲」が自分の方へ飛来しているかどうかは、手元の放射線検知機で知るしかない。「放射能雲」の本体が来る前に、さきがけ的に飛来する放射性物質の一部を捕らえられるかもしれない。緊急避難すべきか・ヨウ素剤を飲むかどうか・事故後に引越しをすべきかの判断も、検知機がたよりになる。いますぐに手に入れておこう。 ウクライナ製(1万円)の携帯型(電池式)ガンマ線検知機が安価でおすすめ。
10、避難のめやす・・・500マイクロシーベルト/毎時で緊急避難「放射能雲」通過後は、地面に降下した放射性物質からの被ばくが、外部被ばくのおもな原因になる。日本政府による避難基準は、外部被ばくが0.1シーベルト(一般人にたいする年間規制値の100倍!)と決められている。「放射能雲」通過直後に、降下した放射性物質からの放射線による1時間あたり被ばく線量が600マイクロシーベルト/毎時(通常の5000倍)のとき、そこに7日間とどまると外部被ばく線量が0.1シーベルトを超える。このような場所からは、できるだけ早く避難した方がよい。 上記の大事故の場合、曇り風速2mのとき、風下130kmでこのレベルの汚染になる。ただし、事故の規模や気象条件で汚染の様子はまったくことなる。 いま私たちが手ごろな価格で簡単に買うことができる放射線(ガンマ線)測定器では、測定範囲を最大に切り替えても999マイクロシーベルトまでしか測定できない。測定値は時間とともに0.5〜1.5倍ていどの範囲で変動するから、平均600マイクロシーベルト/時間でも最大値を示すときは振り切れるかもしれない。そこで、500マイクロシーベルト/毎時(ふだんの4000倍)で緊急避難とおぼえよう。
11、数100マイクロシーベルト/時間の被ばくでも小児甲状腺ガン図3 図3は、チェルノブイリ原発事故当時の放射性ヨウ素131によるベラルーシ国内の汚染地図(ベラルーシ水理気象局1994年作製、原子力資料情報室通信No.249に掲載に、同じ縮尺の日本地図を重ねたものだ。 ゴメリ州では、事故5年後から事故前の100倍の小児甲状腺ガンが発生し、事故10年後にピークに達した(チェルノブイリ医療基金ニュースレター1998年)。 事故時の空間線量率の最大値はブラーギン市で48ミリレントゲン/毎時、チェチェルスク市では10ミリレントゲン/毎時だった。1レントゲンの照射が1レム(=0.01シーベルト)の被曝線量を与えるとすると、ブラーギンで480マイクロシーベルト/毎時、チェチェルスクで100マイクロシーベルト/毎時の被ばく線量になる。チェルノブイリ原発事故では10日近くも大量の放射性物質の放出が続いたので最大値だけでは比較できないけれど、数100マイクロシーベルト/毎時ていどの被ばくでも将来の甲状腺ガンの発症の可能性がある。
12、ヨウ素剤・・・5マイクロシーベルト/毎時放射性ヨウ素により甲状腺が傷つくことは、放射性ヨウ素が体内に取り込まれる前にヨウ素剤(ヨウ化カリウム剤)を飲むことで、かなり防げるとされる。浜岡原発周辺8km以内の住民のヨウ素剤は公共施設にまとめて備えられているが、原発震災時に被ばく前に配ることは、やろうとしてもできないだろう。また、チェルノブイリの風下180kmで甲状腺ガンが多発していることを考えれば、遠方の者も、それぞれがヨウ素剤を用意しておくしかない。 ヨウ素剤を飲むことによって甲状腺被ばくを阻止できる率は、服用が被ばくの12時間前=90%、服用が直前=97%、服用が1時間後=85%、服用が3時間後=50%。
12、長期汚染による居住地放棄ここまで、短寿命の放射性物質による急性放射線障害と、放射性ヨウ素による甲状腺ガンを、少しでも減らす手だてを考えてきた。この後は、放射性物質を含む水や食品をできるだけ長い間、体に入れないこと。そして、計測器を使って自分のまわりの汚染状況をしらみつぶしに調べていく長期戦になる。 すでにかなりの量の放射線を浴びてしまった以上、将来のガン発生率が多少上がることはしかたがない。しかし、土壌汚染が強いところでは、とどまればとどまるほど、将来のガン発生率が高まる。ある基準以上の汚染地域では、数10年間立ち退くしかない。図4は、チェルノブイリ原発事故による長期立退き地域と日本地図を重ねた図だ。紫色の場所は長寿命のセシウム137で強く汚染されたところで、立ち退き地域になっている。原発から半径30km以内も立ち退き地域になっている。
付、田中長野県知事へのメール(2002年2月1日送信・一部省略・一部用語を修正) 田中康夫知事殿 「県、放射性物質事故に指針」という1月23日付け朝日新聞記事を見て、メールをお送りします。 −略− 東海地震の震源域は赤石山脈の下まで広がっていますから、長野県南部は震源域の至近にあるのですが、長野県民はどうも遠方のできごとのように思っていたようです。最近になり、中央防災会議による予測震度の見直しで、ようやく関心が高まってきたようです。多くの学者が地震サイクルの直前過程に入りつつあると考えています。直前予知は地震そのもの(震源過程)の始まりをとらえようというもので、もし警戒宣言発令に成功しても、数時間前が限度です。 知事は、東海地震の震源域の真上に、中部電力浜岡発電所があり、4基の原子炉があることを、よくご存知だと思います。原発は、放射線というエネルギーを出す核分裂生成物を大量に蓄積しているため、運転を止めても多量の発熱があり、冷却し続けなければならないという性質があります。そのため、運転を停止後も、冷却水の配管が破断すると事故の原因になりますが、配管は地震にたいして、たいへん弱い部分です。 けれども、大地震でも放射性物質が建屋の外に漏れ出すような事故は“絶対に”起こらないというたてまえのために、防災対策はきわめていびつで、信頼できないものになっています。 理学的な震源モデルは、東海地震の平均的な姿を示すものです。現実の揺れには局所的・時間的に大きなゆらぎがあるでしょう。最大の揺れを考える必要があります。また、冷却水が失われても非常注水装置(ECCS)が働き“絶対に”メルトダウンにならないと言っていますが、1979年にスリーマイルアイランド原発でメルトダウンが起きており、11月の浜岡の配管爆発事故も、ECCSで最初に働く2系統の装置のうち1系統が機能を失う事故でした。東海地震発生まで運転を停止すべきだと考えますが、現実に運転される以上、最悪の場合を想定した地震防災マニュアルを用意すべきです。 ほとんどの県民は、東海地震と浜岡原発を結び付ける思考回路をもっていません。しかし、それが他人事でないことは、添付した3枚の絵を見ていただければ、一目瞭然だと思います。 図1は、震度6弱以上になる区域を含む市町村と、浜岡原発の位置。(このページ1枚目の図) 図2は、ベラルーシ国内の、放射性ヨウ素の降下地域の図と、同縮尺の日本地図を重ねたもの。高濃度降下地域は小児甲状腺ガン多発地域と重なっています。このあたりのデータは、菅谷医師によるものも使っています。(このページ3枚目の図) 図3は、セシウム137による地面の汚染状況です。放射性セシウムは半減期が30年という長寿命であるだけでなく、土壌粒子と結合して長くとどまります。高濃度汚染地域は、半永久的な立ち退き地域になっています。図の紫色の地域が立ち退き対象地です。(このページ4枚目の図) 浜岡原発上空の風向きは、北風15%、東風25%、南風15%、西風45%です。南風のときは、信州へ向かいます。上空100mでの平均風速は7m毎秒、時速25kmです。この速度ならば高濃度の放射性物質の塵( いわゆる「放射能雲」)は4時間後に飯田、6時間後には松本に到着します。 放射性ヨウ素の摂取を防ぐためのヨウ素剤服用は、「放射能雲」に巻かれる直前でなければなりません。地震時には長野県南部では交通が寸断されます。服用は指示にしたがってもらうとしても、あらかじめ戸別配布しておく必要があります。(山間部では落石・倒木のため、送電線や電話線も不通になっている可能性がある) 放射性物質の飛来状況は、放射線検知機によるしかないので、検知機の配置が必要です。 静岡方面からの数万−数10万人の避難者の救援をせねばなりません。一刻も早く体についた放射能を洗い流し、衣服を取り替えなければなりません。汚染された持ち物は放棄してもらわねばならないかもしれません。車なども洗い流す必要があります。そのための除染場所の準備が必要です。排水が流れた先は強く汚染されてしまいます。川などへ流れこまないようにしなければなりません。たぶん除染に使った施設と、その周囲は、放棄せざるをえなくなるでしょう。 そこで以下のことを提案します。 1、東海地震対策に(万一の場合に備えて)浜岡原発からの放射性物質放出に備える対策を加える。 2、放射線検知機を配置する。少なくとも消防団の分団単位以上の密度で配置する。 3、県民分のヨウ素剤を備蓄する。南部では戸別配布しておく。静岡・山梨県境では、避難者用にも備蓄する。 4、高濃度汚染地域からの避難者の除染ために、県境付近の公共施設を指定する。大人数が緊急に体の洗浄を行う必要があるのと、周辺が汚染されるので、山間の温泉施設がのぞましい。排水対策をあらかじめほどこしておく。衣服や食料などの救援物資の備蓄か、収集と運搬の手段を講じておく。 おそらく国は、このような対策は不要というでしょう。しかし、県の立場で、県民や隣接県の住民に貢献できることとして、対策をたてておくべきだと考えます。 |
もっと詳しくはこのURLをご参照ください。
http://www.osk.janis.or.jp/%7Ekazkawa/nuclear00.html